どこが仕上がり?トンボの見方
「トンボ」と聞くと昆虫のトンボを思い浮かべる方がほとんどかもしれませんが、印刷関係の現場ではまったく違う意味で使われています。
印刷においてトンボの知識は基本中の基本ですが、トラブルや事故を防ぐために重要なものでもあります。
今回はそんなトンボについて、見方や作り方、データ作成時の注意点などを簡単に説明していきます。
トンボとは?
トンボとは、印刷物の仕上がりや折りの位置を示す目印のことを指します。
トリムマークとも呼ばれ、DTPから印刷、製本や断裁といった後加工まで、「これがなくては仕事にならない」というくらい重要なものです。
トンボには日本式と西洋式の二種類がありますが、国内では日本式が一般的なので、こちらの見方がわかっていればほとんど困らないでしょう。
日本式トンボ
◉センタートンボ 仕上がり位置の天地左右中心を表したもの。十字の形がトンボに似ていることがトンボの由来になっています。
◉角トンボ 内側にある線が仕上がりを示す断裁線。外側の線は製版線と呼ばれ、塗り足し(後述)の部分を表しています。
◉折トンボ 折りやミシン目、スジ押しといった後加工の位置を示しています。(例:チケット等の半券など)
西洋式トンボ
◉日本ではあまり使われていない仕様。印刷物の仕上がりにトンボが入り込んでしまう恐れがあるため、印刷会社によっては入稿を受け付けていないところもあります。
どうしてトンボが必要なのか?
■塗り足し
印刷物の断裁は重ねて行うため、どうしても微妙な断裁ズレが生じます。
そのため、データが仕上がりピッタリだとうまく断裁できません。
仕上がり線の内側で切った場合は少し小さくなるだけですが、少しでも外で断裁してしまうと紙の色が見えてしまいますよね?
こういった断裁ズレの対策として、あらかじめ仕上がり線の外まで絵柄を延長しておく必要があります。
仕上がり線と製版線の間がそのための領域で、延長部分のことを塗り足しと呼んでいます。
塗り足しの幅は必ずしも一定ではありませんが、基本的には3mmと覚えておけばいいでしょう。
では、実際のイラストで確認していきます。
左のイラストは仕上がりの外に3mmの塗り足しをつけてあります。
右は仕上がりピッタリに作ってあり、塗り足しはありません。
このデータで印刷が完了し、断裁の工程に入ったとしましょう。
ここでアクシデントが発生しました!
わかりやすく説明するため、「断裁位置が2mmズレた」とします。(実際にそこまでズレることはまずありません)
そんなときでも、左のデータならさほど問題ありません。(絵柄が左に寄りはしますが……)
しかし、右のデータだと右下に白が見えてしまいます。
こういった事故を防ぐのが塗り足しの役割で、この塗り足し部分を示すために仕上がり線の外にもう一本の線(製版線)があるのです。
ちなみに、断裁ズレによって内側の絵柄が欠けてしまう可能性もあるため、必要な絵柄は仕上がりから内側に3mmほどの余裕をもって配置するようにしましょう。
1)塗り足しをつける
2)仕上がりよりも3mmほど内側にレイアウトを収める
いずれも非常に重要なことで、私たちが入稿データをチェックするときも必ず確認しています。
■見当合わせ
トンボは印刷時に行われる見当合わせにも用いられます。
見当合わせというのは、それぞれの色の印刷位置を決める調整のことです。
たとえば図のように色ごとの位置がズレずれた状態(版ズレと呼ばれる状態)で印刷してしまうと、絵柄がぼやけて見づらくなってしまいます。
そのため、トンボのような細い線で色のズレを確認し、調整していくわけです。
また、両面印刷時には表裏の印刷位置を合わせるためにも使用されます。
データ作成時の注意点
■トンボの作成方法
Illustrator(ここではCC2020での場合をお話ししていますが下位バージョンでもほぼ同様です)ではトンボの作成の方法が2種類あります。
・オブジェクト→トリムマークの作成
・効果→トリムマーク
このうち「効果→トリムマーク」を使うと、対象のオブジェクトとトンボが一体化したアピアランスになってしまうため、印刷のためのオペレーション的にやや扱いにくいデータになってしまいます。
印刷会社への入稿時には「オブジェクト→トリムマークの作成」を使用しましょう。
また、オブジェクトを選択する際、線が設定されたオブジェクトにトンボをつけると線幅の分仕上がりが大きくなってしまいます。
可能な限り線なしのオブジェクトから作成するようにしましょう。
ちなみに、IllustratorやInDesignといったDTPソフトが普及するまでは、カラス口(同じ太さで線を引けるペンのような道具)やロットリング(ドイツ ホルベイン社の製図用筆記具)による職人的な技術で手書きされたり、透明な樹脂系のトンボシールを貼り込んだりと、ひとつずつ手作業で作成されていました。
今ではちょっと考えられませんね……。
■トンボの太さと色
細すぎて目視できないのも困りますが、見当合わせに使うため、0.1mm(0.3pt)程度の細い線で作るのが基本です。(Illustratorの初期設定も0.1mmになっています)
色に関してはレジストレーションカラーにしておくのがオススメです。たまにCMYK100%で作られたデータを見かけますが、これだと特色のトンボがつきません。「トンボ=レジストレーション」と覚えておきましょう。
まとめ
トンボは印刷する上でなくてはならない重要な存在です。多色刷りの見当合わせや印刷後の断裁、折加工など、製品をイメージ通りに仕上げるためにさまざまな場面で登場します。地味な存在かもしれませんが、きちんと知っておくことで、いざという時に役立つかもしれませんね。